届いた論文

息子の卒業論文が製本され送られてきました。  何やら 内容はチンプンカンプンで さっぱりわかりませんが 最初に「T子(連れ合いの名)と私の家族に捧ぐ」と書かれているところを 感謝の気持ちとして見て欲しかったのでしょう。  


ドラフトでは 「T子と両親へ」だったらしいのですが 折に触れ 屈託ない電話で緊迫感を和らげてくれたであろう妹のMYKも含めて 「T子と私の家族へ」に 落ち着いたようです。  MYKにも送ったようですが 矢張り、米国でそれなりに緊張して生活しているだけに感激して 届いた本を胸にうるうるしたとのこと。  


息子が数学を専攻しているというので 2年くらい前でしょうか 博士の愛した数式」 小川洋子も読みました。  論文がうまくはかどらなかった時期に この本を送ろうか?ッと言うと 「ぞぉ〜! 博士と言う言葉なんて聞きたくもない。  数学と聞くと寒気する」と拒否されました。 が、この本の中で 80分しか記憶が保てない数学博士の最も愛した数式がオイラーの法則。  


この数式を美しいと博士は言い、愛する女性にオイラーの数式を書きます。  この式の事についての説明を聞いたときの 息子の説明メールが 保存してありました。  長い説明だったので 何故美しいかの部分だけ この日の記念に載せておこうと思います。


[オイラーの法則]
オイラーの法則とは、e^(ix) = cos(x) + i・sin(x) の公式のことです

[なぜ美しいか]
通常われわれは、1、2、・・・、10、100といった10進法で数を表すシステムに慣れている ので、 そうした数(たとえば整数)が自然な数で、 分数はまだ許せるけれど、分 数でも表せない数(無理数といいます。 永遠に続く少数で、πやeも無理数です)はいわば Artificialな不自然な数と考えがちです。


しかし数学をやる上では、 幾つかの非常に重要な”無理数”が そこかしこで現れるため、 否が応でも そうした数が自然界に固有の”本質的な”数だということを 認めざるをえません。


もしそうした数が表記上複雑になってしまうんだとしたら、 それは、表記法こそが不自然なのかもしれない・・・ということです。  そうした数の王様が、πとeです。  またちょっと意味合いは違うのですが、i も通常考えにくいけど実は重要な要素という意味では同じようにとらえていいでしょう。  でも、これらの数は本来は数学の中での全くことなる場面で現れる数です。


で、オイラーの法則の何がすばらしいかというと、
”全く異なる局面で現れる”、”一見、人工的に見えるけれど、 実は、自然界の法則に 深く根ざしているかもしれない特別な数”が、”簡潔な法則で結びついていた。  ということに尽きると思います。 


この法則を見て数学者は”調和”を感じます。  特 に一神教を信じる人で 科学と宗教をうまく共存させたいと思う人たちは、この「調和は神の摂理によってもたらされたもの」と感じたりもするようです。 


宗教的ではない人でも、 純粋に数学のために数学を やっている人たちは、 こうした調和や美しさをみつけることを生きがいにしているので、その意味でも 数学者にとってはとても大事な公式かな。


ということで、特に個人的な感情に関係のある法則というわけではないのだけれども、 純粋数学者がその能力を著しく制限されてしまったとき、 最後に覚えていることとしては、ふさわしい法則なのだろうと思います。」(もしかして 嫌がっていたけど 息子はこの本を読んだのかもしれないなと ふと思いました)


80分しか記憶を保てない数学博士の こだわりが何となくわかるような気がしただけですが その時に最も色濃くこだわれるもの 私の場合は何だろう?