当時、蘭医学の総本山とも言われた桂川家には 最新の知識を求めて 様々な学識者が出入りしていた。 その中には 杉田玄白、福沢諭吉など著名人多数。 その人達の素顔がみねさんによって 息を吹き返すかのようにリアルに語られる。 歴史上の人物の知られざる面をそっと覗き見するような面白さ。
それにしても80歳にして、その記憶の鮮明さには驚嘆するものがある。
武士の娘は 最初、A daughter of the Samuraiというタイトルで英語で出版された。 冠詞がThe daughterではなくAになっているところから 特定の人物をさすのではなく 一般的な武士の娘ということらしいが 日米異文化の狭間での見聞録でもある。
著者杉本鉞子は長岡藩の家老の娘として 厳しい躾と教養を身につけ、20歳で結婚の為渡米するが、驚くほどの柔軟性を持ち、つましく、忍耐強く 不屈の精神で毅然と立ち向かう。 夫亡き後、娘2人と共に一端は帰国するが 再度米国に戻る。 雑誌「アジア」に武士の娘を投稿したりコロンビア大学で日本文化についての講座を受け持つなど日米文化交流に貢献。
武士の娘としての心得、躾、習慣など、今では忘れられているような折り目正しさや規律、女性像が美しい文体で綴られている。 こちらもまた幕末から近代への変遷が 変動期に生きる一個人の目を通して語られ興味深い。
今以上に日米の違いも大きかった当時のカルチャーショック、逆カルチャーショック、私自身の半世紀近く前の異文化体験が 自ずと重なり 時代も立場も違ってはいますが 共感する箇所があります。 2冊とも非常に美しい日本語で書かれていて感動しました。