夏時間の庭

画像は映画とは関係ありませんが、私の中での映画のイメージに似ています
ある日、どうせ出かけるなら 頑張って2本の映画鑑賞をしようと、時間をネットで調べました。午前午後と恵比寿ガーデンシネマで時間の調整ができます。おまけに、ちょっとゆっくりランチタイムも・・・

鑑賞した映画、「夏時間の庭」と「扉をたたく人」。 私は、どちらかと言えば小さな劇場で上映される映画を見るのが好き!しかし、何処でも簡単に見ることが出来ないのが難点。でも、それだけに意気込みも違います。

10時25分から始まる「夏時間の庭」は、予告編なし、20分前に到着したものの 残席僅かという混み具合。そうだった!何と、水曜日で映画割引デー。シニアの私はいつも1,000円ですから、悪い事をしてしまいました。他の日にすればよかったね。

夏時間の庭は 移ろいゆく時の流れ、家族の心の動き、人間関係など、しっとり、彩り美しく叉時にはセピア色に染めて描かれています。 エレーヌという75歳の美しい母親の誕生日を 閑静な邸宅の木漏れ日溢れる庭でお祝いする場面から始まります。 

3人の子供達はそれぞれ独立し、社会的にも活躍、中国、米国など遠路に拠点がある子供達も 母親の75歳の誕生日に家族同伴でフランスに集います。その時に、エレーヌは、自分亡き後、遺品の整理についての不安や望みを長男に打ち明けます。序章ということでしょうか。

やがて、エレーヌは亡くなり、価値のある美術工芸品や大きなお屋敷など遺産についての話し合いが 兄弟間でなされるのですが 出来るだけ、現状のままで保存し、兄弟親族が集える思い出の場にしたいので売りたくないという長男。しかし、多額の相続税や現実に目を向けたほうが良いという妹や弟。意見の相違はあるものの 互いに理解しようと勤め、思いやりの気持ちがあるところ、また、余り執着心もなくさらっと描かれているところから 焦点はそこではないと思います。

過去の愛着だけでは生きられず、どこかで心の決着を要される時がありますね。 この映画はオルセー美術館の20周年を祝しての映画だそうです。なるほど、バルビゾン派コロージャポニズムを引き起こしたブラックモンの花瓶、ホフマンの棚、ルイ・マジョレルのライティングデスク、ルドンの絵画など 豪華な美術品はオルセー美術館に寄付されるのです。映画の中の美術品は本物だそうです。これらを見るだけでも価値のある映画です。

生活の中で色々な表情をみせ、様々な用途で日常生活に溶け込んでいた美術品、寄付され展示されると ひっそりとしていて 息遣いを感じられなくなったようです。 多くの人に優れた作品を楽しんでもらえるというのは素晴らしい事ですが 矢張り、生活の中で使われるという素晴らしさも叉教えてくれた映画です。

最後の場面、人手に渡る事になった大邸宅、 お別れにと ちょっと羽目をはずしがちな孫娘が友人達を沢山招いてパーティをひらくのですが 最初のエレーヌの誕生祝と場所設定は同じでも 時代の変遷を感じさせます。ちゃきちゃき現代っ子の孫娘が 過ぎし時を偲んでボーイフレンドに涙を見せるシーン、三世代の人間の心理を上手に表現して締めくくっています。心温まる豊かな映画でした。