- 作者: 山本兼一
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/10/25
- メディア: ハードカバー
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少し習った事はあるが 茶道の素養は無いに等しい。 しかし、この本は歯切れの良い文体、美しい形容のバランスがよく、何となくすぅ〜っと納まる。一文が短く、わかりやすい。利休切腹の時から、時間を逆行させ、まるで短編小説のごとく、一章ごとに違った登場人物が語る重厚な利休像。 立体的にそして奥深く掘り下げての様々な視点からの利休考察、及びその折々の様子が幾重にも層をなす。
切腹を覚悟しての妻との会話。鋭い妻の感受性、度胸、静寂な穏やかさの中にも 読んでいてピカッと稲妻のようなものを感じてしまう。色々な描写が美しく、ヴィヴィッドな映像を心の中に描けるのは 日本人として生まれてきた冥利に尽きる。 谷崎潤一郎の「陰影礼賛」に、黒塗りの吸い物碗から、ゆらゆらと湯気が立ち上り その中でおぼろげに碗だねが見える美しさが述べられていましたが 私達日本人ならすぐに像を描けますものね。
最後まで読んでいないのでわかりませんが どうやら鍵を握るのは 利休が大切にしている緑釉の香合と妻が鋭く一言尋ねた利休の心の奥にある愛。その愛が醸し出す艶やかさがあるゆえ、誰をも寄せ付けないほど利休を昇華させ ひいては秀吉の逆鱗にふれるまで・・・さて、さて、これは一種のサスペンスのような切り口もあり 読み終えるのが楽しみです。
随分昔に読んだ 野上弥生子著の「秀吉と利休」は、文体にやや読みづらいものがありましたが 読み応えがありました。そして井上靖の「本覚坊遺文」は 利休最後の弟子にあたる本覚坊の手記に基づき利休の心を探って行くようだったと記憶している。
違った切り口での利休像、それだけまだ謎に包まれているのでしょう。「利休にたずねよ」は 正に、ご本人に尋ねるのが一番というタイトルどおりなのか・・・他の2人の方と、叉読後感を語り合うのも楽しみです。