童謡・里の秋

志賀直哉旧庭の柿
先日、指導者の方から、今後、コーラスで練習にとりいれたい季節の曲として 「里の秋」と言うお話があった。 今までも 四季をいつくしむ日本の情感溢れる歌詞に感動し 幼き頃の懐かしい光景に思いをはせながら 歌ってはいたのだが、その曲が作られた背景や所以(ゆえん)について 余り調べた事はなかった。

金子みすずゞの詩をとおして その背景を知るということが より深くその歌を味わえると痛感。 里の秋についても調べてみることにした。 優しく、きれいだけど 吹けゆく秋の寂しさがせつないなぁ〜! 囲炉裏で栗の実! 風情ががあるなぁ〜!が、今までの私の印象!  
しかし、その歌が出来上がるまでの変遷を知って 当時の日本の於かれていた悲惨な状況と 乾ききって憔悴していた当時の日本人の心に この歌が沁み込む様に広がっていった様子が 浮かび上がってくるのです。 以下、要旨をまとめてみました。

1945年終戦の年の暮れ、NHKは復員兵や引揚者たちを励ます特別番組「外地引き上げ同胞激励の午後」を 南方からの復員船が浦賀港に入港する12月24日に放送する企画をたてた。

依頼を受けた海沼氏(作曲者)の心に去来したのは 以前斉藤氏から郵送された詩「星月夜」。 詩が創られた当時は、戦時色一色 心に触れる詩は作りにくい状況。 戦地にいる父を思って息子が送る慰問文形式なら 訴えられるものがあると、斉藤氏が書き上げたこの詩。 満点の星が迎えてくれた夜に完成! 題名も「星月夜」と命名

その「星月夜」、1番2番はそのまま 特別番組で使えても 戦争が終結した番組では、3番4番は父の武勇長久を祈り、大きくなったら自分もお国のために兵隊になるという意味合いで不適当。 海沼氏の依頼で 4番をカットし 3番を引き上げ船で帰港する父の安否を気遣う母と子の心を描いた 引揚者慰問の詩に変更し 題名も「里の秋」とされた。

変更前

きれいな きれいな 椰子のしま
しっかり 護って くださいと
あぁ 父さんの ご武運を
今夜も  ひとりで いのります
 
大きく 大きく なったなら
兵隊さんだよ うれしい
ねえ かあさんよ 僕だって
必ず お国を  護ります
       

変更後

さよなら さよなら 椰子の島
お船に ゆられて かえられる
あぁ とうさんよ ご無事でと
今夜も かあさんと いのります
      
特別番組で、川田正子の歌った この「里の秋」は大反響で 「歌い終えたスタジオ内はシーンと静まり返り その場に居た全員が心が浄化されるのを感じた」とのこと。 放送終了後の電話がひっきりなしになり、翌日以降も問い合わせや感想の手紙が殺到し、こんなに反響があったのは NHKでも 初めてのことだったということです。

背景を知ってから歌うと、もっと心を込めて歌いたくなってきますね。