4分間のピアニスト

このラストシーンの演奏、音楽映画によくある美しいラストを 勝手に想定していたので 思わず後ずさりしてしまうほどの驚愕の演奏だった。


刑務所で受刑者達の情操教育に ピアノを教える80歳のピアノ教師。  レッスンを受ける音楽的才能のある21歳の女性、ジェニーは、反抗的で凶暴な振る舞いをしたり 何かと問題をおこす。


この二人の女性の火花が散るような魂と個性のぶつかり合いが 音楽のレッスンを通して 時には、弦が切れるかと思うような 緊張感で最後まで演じられています。


自分の若かりし頃の夢を もう一度この若い女性に託そうとする年配のピアノ教師は 法を犯してまでも 執拗さと大胆さで ジェニーのコンクール出場まで ぐいぐいひっぱっていくのですが 幾度もの困難に遭遇します。


老いと若さ知性と若き本能、クラッシックのみが音楽とする教師、ロックもジャズも本能で演奏するジェニー。  何かにつけて両極端の二人。  共通点は 互いに心に傷のある過去をもち、孤独、そして音楽が好きということ。  こんな二人の間に 少しずつ温かい気持ちが流れていくのですが すんなりとはいきません。


厳格な教師を演じるモニカ,ブライブトロイ、身のこなし、視線、顔の表情、何かにつけて 心憎いほど演技が上手。  叉1200人の中から選ばれたと言う主演の女性も新人とは思えない迫力ある演技。  ドイツで主演女優賞を受賞している。  それにピアノ経験は無く 6ヶ月の特訓を受けたそうだが あの指のこなしや、弾きかたは実演そのもので感心する。


全体を通して流れるシューベルト即興曲変イ長調。  穏やかで、たゆたゆと流れるメロディは どこか胸にせまりくるものがある。  この曲は かの有名なバックハウスが演奏途中、気分が悪くなり 予定していた演奏曲をやめ 最後に弾いた一曲。  自分の終章が近づいている事を悟っていたのでしょう。  万感の思いを込めて弾いた曲。  ほどなくバックハウスはこの舞台を最後に 人生の幕も閉じたのです。


話を、映画のラストシーンにもどしましょう。  ジェニーは4分間の演奏で 自分の内面を全て吐き出すかのような 何かが乗り移ったかのような演奏をします。  それは、老年のピアノ教師にとっては 程遠い演奏なのでしょうが 理解を示します。  一瞬凍てついたような聴衆も 一人の拍手からやがてスタンディングオベーションに・・・


ここでジェニーは 誰にも決してお辞儀なんてしないと反抗していたのに 深々とお辞儀をして どことなく将来の希望が暗示されるのですが それにしても ちょっと刺激の強い演奏でした。  


この映画で 実際にピアノを弾いているのは ドイツ在住の2人の日本人女性ということです。  ラストシーンの演奏は圧巻としか言いようがありません。  是非、機会があればご覧下さい。