全て生かされて

志村さんの本は何冊も読んだし テレビでも何度か拝見している。 しかし、実際の作品を今まで鑑賞したことはなかった。 今回の展示については 大阪で日曜日NHKの番組で紹介されていた。  


植物の語りかける言葉に耳をかたむけ 自由な精神で 気の遠くなるほど緻密な工程をふみ 空間にその植物の命をつむいでゆき それを着物に仕立てる。  その従来の志村さんの着物作品のほかに 新しい試みとしてのコラージュの展示があるとのことでどうしても行きたくなった。  


どんなものにも命が宿っていると言われる志村さんは 切れ端の織り布もきちんと保存しておられ ある時 その小さな布達が「出番を待ってるよ」と、言う囁きに気づかれ コラージュとして 活き活きと躍動する命を再生された。  植物から染められた布が ジャズと言う題名のコラージュとして 息吹を与えられ 今にもステップを踏みだしそうなくらい躍動感のあるモダンな立体感のある作品になっていた。  


クラリネット、鍵盤と言う題名のものも そして秋の落ち葉のイメージのパッチワーク等他 志村さんの心の中での豊富なイメージのふくらみが勢い良く ほとばしったような感じがした。  楽しんで目を輝かせて作品とされた思いが伝わってくる。 色をとしてとらえ その響きを色調として具現化し リズムを刻んで織っていかれるような 私にはそんな気がしてならない。  


ある色を表現しようとされる時も 決して混ぜ合わせてその色を作るのではなく 繧繝(うんげん)と言われる一色ずつ並べて視覚混合でその色を表現されていると語っておられる。  ひとつひとつの色の主張を生かしつつ 互いに響きあう共鳴音で何ともいえない暈し(ぼかし)を表現すると 深みのある周りと溶け合う素敵な色合いになるのだそうである。


着物の展示も 緻密な何ともいえない色合いで 日本の湿潤な風土からうまれる季節の移ろいの まさに、その天の時にいただいた植物の命の色。  すっぽりと 大きな優しさで包まれた感じがした。  しかし、こうして展示されているよりも 日々の生活の動きの中で 影や光の狭間で揺れ動く 色合いの移ろいを見ることが出来たら もっと素敵だろう! そして、 一瞬でも纏う事が出来たら・・・っと 贅沢な祈りのような願いがあったことも否めない。


いのちを纏う―色・織・きものの思想

いのちを纏う―色・織・きものの思想

帰りの電車の中で 夢中になって読んだ本。  そして、刺激を受けて 古布の絹の感触を楽しみながら 帰宅後2日間、夜が白むまで ちくちくと針を動かした這い子人形2体。  今年のお雛様には 間に合わないつるし雛51飾りの中の一揃え。