病院

 

          


                  
病院に泊まりこむと 別の世界を 感じる。  日常生活とかけ離れて 小さな狭い空間、 狭い人間関係。 そして患者さんの不安感や緊張。  それゆえに 医師、看護婦、ヘルパーの皆さんの 患者さんへの接し方が とても大切だと痛感する。  家族への説明を その都度 丁寧にしてくださる医師、 意識がなくても きちんと声をかけてから 身体に触れる看護婦さん、 当たり前の事だけど そんなひとつひとつが 信頼を深めていく。  自分の目が段々厳しくなっていく反面 感謝の気持ちも増し 変に自分を納得させている。


母の部屋の右隣は 銀髪のハンサム老紳士。  一日中、 「おい! 一寸来い!」 「一寸来なさい」 「君いかんねぇ〜!何してんだ〜!」、 それでも誰も来ないと 「お願いします〜ぅ」っと 元気な声を発しておられる。  看護婦さん泣かせの患者さん。  でも、どこか可愛げのある 気になる存在なのである。  力が強く  点滴をはずしたり おむつをとってしまったりするので 看護婦さん4人がかりでお相手。  


聞くところによると お元気な頃は T大の心理学の教授をされていて かなり活躍されていた人らしい。  認知症であっても その人のそれまでで 一番色濃かった部分が残り その話し振りから 大学で教鞭をとる妹は 「きっと あの話し方は国立大学で 昔教えておられたと思う」と 図星であった。  お声がしないと 「どうされたのかな?」


左隣の部屋は もう眠っておられる老婦人。  毎朝、40歳くらいの娘さんが 出勤前に自転車で 病院に来られて 「おかあちゃん。おかあちゃん。お早う。 仕事に行ってきます」と ほんの5分ほど 挨拶に寄られる。  窓からそれとはなしに下を見ると その娘さんが 自転車に乗りながら お母さんのお部屋を 見上げておられた。 「毎朝そうされているよ」っと 母についてくださっているMさん。  そして仕事の帰りに 「ただいま」っと よって行かれるのが日課のようである。 いいお話。    


写真は 過日、訪れた癒しの空間 クレマチスの丘の花。  此花は 中国から渡来した「てっせん」。 いわゆる 一般のクレマチスは改良されたものが多いとのこと。